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東京地方裁判所 平成9年(ワ)21348号 判決

アメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市アライオラニ一四一三番

原告

ベンジヤミン・アヒナ・アイパアメリカ合衆国ハワイ州カイルア市アリヒプレース五八〇番

原告

コーストライン・インターナショナル・インコーポレーテッド

右代表者

リンウッド・ミッチェル

右両名訴訟代理人弁護士

島田康男

右訴訟復代理人弁護士

北川展子

大場由美

東京都墨田区横川五丁目一〇番一-一一八号

被告

株式会社はあ-とあんどはあ-と

右代表者代表取締役

竹澤芳廣

右訴訟代理人弁護士

古瀬明徳

右補佐人弁理士

八鍬昇

主文

一  被告は、その販売するシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンに別紙「被告標章目録」一、三及び五記載の各標章を付し、又はこれを付したシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンを販売してはならない。

二  被告は、その販売するシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンの広告に別紙「被告標章目録」一、三及び五記載の各標章を付してこれを展示し、頒布してはならない。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余は原告ら、の負担とする。

五  本判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告は、その販売するシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンに別紙「被告標章目録」一ないし五記載の各標章を付し、又はこれを付したシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンを販売してはならない。

二  被告は、その販売するシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンの広告に別紙「被告標章目録」一ないし五記載の各標章を付してこれを展示し、頒布してはならない。

第二  事案の概要

本件は、原告らが被告に対し、被告は別紙「被告標章目録」一ないし五記載の各標章(以下、これらをその番号に応じてそれぞれ「被告標章一」のように表記する。)をシャツに付するなどして使用しており、それが原告らの共有に係る商標権の侵害に当たることを理由に、商標法三六条一項に基づき、侵害の停止又は予防として、右各標章の使用の差止を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告らは、左記の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を共有している。

出願年月日 平成六年五月一〇日

登録年月日 平成九年六月六日

登録番号 第三三一八一一七号

商品区分 商標法施行令別表の商品区分第二五類

指定商品 洋服、コート、セーター類、ワイシヤツ類、下着、水泳着、水泳帽、靴下、手袋、帽子、運動用特殊衣服登録商標 別紙「原告商標目録」記載のとおり

2  被告は、シャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンに被告標章二及び四を付してこれを製造販売し、また、シャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンの広告に別紙「広告目録」記載の態様で被告標章一ないし五を付してこれを展示し、頒布している。

二  争点

1  被告がシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンに被告標章一、三及び五を付してこれを販売しているか否か、あるいは、販売するおそれがあるか否か。

(原告らの主張)

被告は、シャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンに被告標章一、三及び五を付してこれを販売しており、仮に現に販売していないとしても、右各標章を付してこれを販売するおそれがある。

(被告の主張)

被告は、被告標章一、三及び五については、これを広告宣伝用にのみ使用したものであり、自らシャツ等の商品に付したことはない。被告は、過去に被告標章一及び三の使用を第三者に許諾したことはあるが、右使用許諾関係は既に解消されている。

2  被告標章一ないし五が本件商標と類似するか否か。

(原告らの主張)

本件商標は、「BEN」と「AIPA」からなる結合商標であり、「BEN」と「AIPA」との間には一文字から半文字程度の間隔が設けられている。また、「BEN AIPA」は、外国人の名称と観念されるところであり、「ベンアイパ」が「アイパ」と略称されることは、我が国の取引における氏名の取扱いから見て通常のことである。そうすると、本件商標については、「BEN」と「AIPA」とを分離して観察し得るものであり、本件商標からは「ベン」又は「アイパ」の称呼が生じるものである。

被告標章一ないし五は、いずれも「アイパ」の称呼が生じるものである。

実際上も、本件商標を付した原告らの商品が「アイパ」と称されて取引されており、被告標章一ないし五を付した被告の商品と誤認混同を生じている。

したがって、被告標章一ないし五は、いずれも本件商標と類似する。

(被告の主張)

本件商標の構成態様は、通常のゴシック活字体で「BEN AIPA」と表示してなるものであり、「BEN」と「AIPA」との間には半文字程度以下の僅かな間隔を有して、同一の文字の大きさ、態様で横一列に表記されており、発音数も五音と短く、本件商標からは「ベンアイパ」という一連一体の称呼のみを生じ、「アイパ」の称呼は生じない。

これに対し、被告標章一の構成態様は、背景にハイビスカスの図柄を配し、矩形状枠内に特殊な書体の欧文字で「aiPa」と表示するとともに、その下段に小さく「SURF BOARD」と表示してなるものであり、同標章からは「アイパ」単独の称呼が生じるとしても、「ベンアイパ」の称呼は生じたい。被告標章二の構成態様は、左右両側に配した三日月状図柄の内部に、直観的には発音の困難なアルファベット様の文字を表示してなるものであり、同標章から「ベンアイパ」の称呼は生じない。被告標章三の構成態様は、楕円形枠内にやや図案化したアルファベット大文字で「AIPA」と表示して、なるものであり、同標章からは「アイパ」単独の称呼が生じるとしても、「ベンアイパ」の称呼は生じない。被告標章四の構成態様は、楕円形枠内に文字としての体裁を超えた図柄を表示するとともに、右楕円形枠外に小さく欧文字で「RECOMMENDATORY GOODS」と表示してなるものであり、同標章から「ベンアイパ」の称呼は生じない。被告標章五の構成態様は、やや図案化したアルファベット大文字で「AIPA」と表示してなるものであり、同標章からは「アイパ」単独の称呼が生じるとしても、「ベンアイパ」の称呼は生じない。

本件商標及び被告標章一ないし五は、いずれも何ら特定の意味・観念を有していない。

したがって、被告標章一ないし五は、本件商標とその外観、称呼、観念を異にするものであり、本件商標に類似するものではない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

被告がシャツ、Tシャツ、トレーナー、セーター、ブルゾンに被告標章一、三及び五を付して現にこれを販売していることを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、被告がシャツ等の広告に別紙「広告目録」記載の態様で被告標章一ないし五を付してこれを展示し、頒布していることは、当事者間に争いがなく、被告が過去に被告標章一及び三の使用を第三者に許諾した事実があることを自認していることなどをも併せ考えれば、被告が将来、シャツ、Tシャツトレーナー、セーター、ブルゾンに被告標章一、三及び五を付してこれを販売する具体的なおそれがあるものと認めることができる。

二  争点2について

1  本件商標の構成は、別紙「原告商標目録」記載のとおり、ゴシック体の欧文字で「BEN AIPA」と横書きされ、「BEN」と「AIPA」との間には、右欧文字半字分ほどの間隔が設けられているものである。

右のとおり、本件商標が「BEN」と「AIPA」との間に半文字分ほどの間隔が設けられている構成であること、「Ben」の語が英語において男性の名前を意味することが一般に広く知られており、それが外国人の姓名を意味するものと想到し得るところ、「Ben」という名が極めてありふれたものであるのに対し「AiPa」という姓は稀少なものであること、加えて、甲第三号証の二、三、第五号証によれば、「BEN AIPA(ベンアイパ)」又は「AIPA(アイパ)」の通称のサーファーBenjamin・Ahina・AiPa(ベンジャミン・アヒナ・アイパ、本件原告)がハワイのサーフイン業界で知られていると認められること、からすれば、シャツ等の取引者・需要者において、本件商標が「BEN」と「AIPA」の二つの部分から成るものと認識するに難くないものと認められる。右によれば、本件商標からは、「ベンアイパ」という一連一体の称呼のほか、「アイパ」という称呼が生じるものというべきである。

また、「AIPA」は、語句として特定の意味を有するものではなく、本件商標からは、外国人の姓名を表すものであるということのほかに、特定の観念は生じないというべきである。

2(一)  被告標章一の構成は、別紙「被告標章目録」一記載のとおり、ハイビスカスの花が三輪並んだ図柄に上から重なるように矩形状の枠が配され、その枠内の中央部分にデザイン化された欧文字で「aiPa」と、また、同枠内の下部に小さい欧文字で「SURF」、「BOARD」とそれぞれ横書きされたものである。

被告標章一については、そのうちの「aiPa」、「SURF」、「BOARD」の各文字部分の標章全体における位置関係やそれぞれの文字の大きさなどに照らせば、「aiPa」の文字部分が要部であると認められ被告標章一からは、「エイアイピーエイ」又は「アイパ」という称呼が生じるものというべきである。また、「aiPa」は、語句として特定の意味を有するものではなく、被告標章一からは、特定の観念は生じないというべきである。

(二)  被告標章二の構成は、別紙「被告標章目録」二記載のとおり、黒地の矩形の枠内の左右両側部分に二つの三日月状ないしアルファベットC様の白地の図柄がそれぞれ開口部を内側に向けて配され、右図柄に挟まれた部分に左から順にアルファベットn又はa様の、アルファベットi様の、アルファベットp様の、アルファベットn又はa様の合計四つの白地の図柄が横一列に配されたものである。

被告標章二のうちのアルファベット様の図柄部分については、これを文字列として認識することも可能ではあるが、その場合、被告標章二の全体の構成に照らせば、一般の取引者ないし需要者は、少なくとも左側の三日月状の図柄について、これを「C」の文字と認識すると考えるのが自然であり(右側の三日月状の図柄についても「C」の文字と認識し得る余地がある。)、右アルファベット様の図柄部分については、「CniPn」、「CniPa」、「CaiPn」又は「CaiPa」の各文字列であると認識され得るものというべきである。右各文字列からは、何ら特定の観念を生じるものではなく、また、「シーエヌアイピーエヌ」、「シーエヌアイピーエイ」、「シーエイアイピーエヌ」、「シーエイアイピーエイ」、「カイパ」又は「キャイパ」の称呼が生じるものというべきであって、被告標章二から「アイパ」という称呼が生じると認めることはできない(仮に、被告標章二の左右の三日月状の図柄を中央の四文字を囲む枠と認識する余地があり得るとしても、前記のとおり左側の三日月部分を「C」の文字と認識し得ることに照らせば、被告標章二から認識し得る文字は、前記の「CniPn」、「CniPa」、「CaiPn」、「CaiPa」に加えて「niPn」、「niPa」、「aiPn」」、「aiPa」ということになり、このように文字の構成において多様な認識があり得ることに対応して多様な称呼が生じ得ることからすれば、被告標章「二からは特定の称呼は生じないというべきであり、多様な称呼の一つにすぎない「アイパ」をもって被告標章二の称呼ということはできない。)。

(三)  被告標章三の構成は、別紙「被告標章目録」三記載のとおり、黒地の楕円形の枠内にアルファベット大文字で「AIPA」と白地で横書きされ、その両端の「A」の各文字がそれぞれ中央に向かって傾斜した形で書かれているものである。

被告標章三からは、「エイアイピーエイ」又は「アイパ」という称呼が生じる。また、「AIPA」が語句として特定の意味を有するものではないことは前記のとおりであり、被告標章三からは、特定の観念は生じないというべきである。

(四)  被告標章四の構成は、別紙「被告標章目録」四記載のとおり、黒地の矩形の枠内の中央部分に白地の楕円形の枠が配され、その枠内に横一本の直線を挟んで上下に線が往来するような形状の図柄が描かれ、右枠内の下部には、小さな欧文字で「RECOMMENDATORY GOODS」と白地で横書きされたものである。

被告標章四のうちの楕円形枠内の図柄部分については、これを見る者が、これを文字列として認識することは極めて困難であるというべきであり、被告標章四からは、そのうちの「RECOMMENDATORY GOODS」の文字部分から生じる観念及び称呼以外に、特定の観念及び称呼が生じると認めることはできない。

(五)  被告標章五の構成は、別紙「被告標章目録」五記載のとおり、黒地にアルファベット大文字で「AIPA」と白地で横書きされ、その両端の「A」の各文字がそれぞれ中央に向かって傾斜した形で書かれているものである。

被告標章五からは、「エイアイピーエイ」又は「アイパ」という称呼が生じる。また、「AIPA」が語句として特定の意味を有するものではないことは前記のとおりであり、被告標章五からは、特定の観念は生じないというべきである。

3  以上検討したところによれば、被告標章一、三及び五は、いずれも本件商標と外観を異にし、観念を同じくするものではないものの、称呼を同じくするものと認められる。他方、これらが本件商標と他の点において著しく相違するなど、その商品の出所を誤認混同するおそれを否定するような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告標章一、三及び五は、いずれも本件商標と類似しているというべきである。

被告標章二及び四は、いずれも本件商標と観念を同じくするものではなく、外観及び称呼も異にするものであり、取引者、需要者に対して、本件商標とは異なった印象や連想を与えるものというべきであって、一般の取引者、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれがあるとは認められない。したがって、被告標章二及び四は、いずれも本件商標に類似するということはできない。

三  以上によれば、原告の請求は、主文一項及び二項記載の限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一〇年一二月一七日)

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 中吉徹郎)

被告標章目録

〈省略〉

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原告商標目録

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広告目録

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